平成15年1月7日に新春講演会を開催いたしました。
新春講演会録 1月7日(火) 「日本経済世界の経済?デフレを超えて」 講師 玉置和宏 (毎日新聞論説委員・特別編集委員) 玉置和宏(プロフィール) 1939年生まれ。62年に毎日新聞社に入社。以後海外大学院留学を経て大蔵省等の記者クラブを担当する。現在は財政制度等審議会委員(財務相の諮問機関)、国有財産関東審議会委員を務める。野田市春日町在住。 |
不良債権処理 今年は経済界にとって新しい足場を固めるときだと思います。不良債権の処理をしなさいというふうに私どもが原稿を書き始めたのは1992年であります。バブルというのは時価と簿価の差でありますからその差をどのように埋めるか、バランスシートをどういうふうに直していくのか。それは企業にとっても銀行にとっても大きな問題です。特に銀行はその差が「不良債権」ですからこれを処理しないと新しい金融のニーズ、お金を借りたい、あるいは新しい産業を育成するというところにお金が廻らないわけです。 したがってこれをなるべく早く処理すべきであるということを私どもが主張したのが1992年でありますが、残念なから非常に世間の反発を受けたのであります。やはりあまり早くこういうことを指摘するのは良くなく社内・社外から批判を受けました。 私どもの新聞は自分たちで批判するという組織を持っています。7、8人のベテラン記者がどの記事はどういうふうに評価すべきなのか、いいのか・悪いのかということを決める委員会がありまして、そこで私は査問を受けてこっぴどく怒られた。その不良債権をそのように処理したらその企業はどうなるのか?というわけです。しかし、それがちょうど10年経ってようやく世間に理解され始めたのが昨年の10月から11月竹中プランだったんだなぁと。もちろん竹中さんのやり方には批判もあるでしょう。しかしこれはいつかはやらなくてはならないことであります。 今年、後半明るさが出るとすれば最大の理由は不良債権の処理がある程度進む、進むということは当然企業には再生しうる企業と退場すべき企業があると思いますがその選別が行われて新しい投資機会となり、お金が使われるようになることが大事です。 1970年から1985年くらいの経済摩擦は日本がいったん経済的に優位になりバブルが起こり、それが一番悪いときに破裂した。1989年のベルリンの壁崩壊のとき地球全体が市場経済になったわけです。競争相手が増えバブルが破裂している。そして再び経済はアメリカ優位に移ったわけです。 日本経済が今年を大底として再生の道を進むとすればアメリカ経済は今後除々に衰退を続けていく可能性があります。そして日本とアメリカが再び第2次経済摩擦を起こすだろうと睨んでおります。 2010年から2020年までの間に起こるのではないかと思います。そのときに日本は間違っても2番目のバブルを起こしてはいけないのです。 個人が不況ではない 長期的なお話をしましたが今年あるいは来年の話をします。マクロ的には財政が厳しいのが現実です。予算における国債依存率が44%というひどい状況です。しかも今年36兆円の国債を発行し赤字国債のほうが多くなりました。赤字国債は法律で禁止されていますが新しい法律をつくらなければ発行できないことになっております。これは日本だけではありません。財政規律を重んじる先進国はみんなそういう法律をもっている。ドイツでは憲法で赤字国債は出しちゃやいかんとなっている。非常に日本の財政赤字はあまりにも巨額で想像すらできないほどです。 政治家の方と意見が違いまして、政治家の方は安心しろというのです。個人金融資産は1,400兆円ある。それは非常に大きなことでありまして個人の金融資産のうちは大半は国債や地方債でつまりそういう公債を買うのに使っているんですが。 よく外国の方が日本に来て「なんで日本は不況なんだ?こんなに景気いいじゃない?お台場に行っても渋谷にいっても銀座にいっても・・・。」といわれます。最近銀座に行くとブランドショップがいっぱいありまして、活況を呈しています。それは日本は個人が不況ではないんです。経済主体というのは国の経済主体と企業の経済主体と家計と3つの経済があります。これはあくまでもマクロの話ですが、国は先ほど申し上げたように事実上パンク寸前です。これを立て直すには消費税を少なくても16%以上上げないといけない。一番の問題は年金です。今まで3分の1が国庫負担、それだけではパンクするから個人の負担を増やす、または企業負担を増やすか給付を減らすしかない。今のやり方をなんとか縮小しながらでも続けるためには少なくても基礎年金の国庫負担を2分の1にしようと。そのためには税金をどのくらい必要かというと2兆7千億円必要です。 それは消費税の1%に相当する。正確にいうと消費税は2兆5千億円入るのですが、そのうち5千億円は国も消費します。ということは2%上げればまかなえると。 私は当面、年金の1・2%分は仕方ありませんが、毎年1%づつ上げるのはいかがなものかと。それは法人税を下げたいからです。小渕元首相時に10%下げました。法人税の実行税率は約50%でした。それが現在約40%、これをさらに5%下げて35%にしたい。アメリカは40%くらいですがドイツは40%を割っています。先進国が40%を割っていますからこれを下げたい。そうすると税金が減ります。現実として税金は高すぎる。減税しろと。今年の予算で41兆円の税収見通しがある。 バブルの頃は60兆あった。景気低迷で税収が落ちた面もありますが、基本的には個人取得税が15兆、法人税が10兆、それから消費税が10兆、合わせて35兆、プラスその他もろもろ資産課税合わせて45兆円。それ自身が非常に今の税率を続ける以上、そういう状況だと。これで法人税率を下げる減収となる。 インフレターゲット論はマスコミネタ? 法人税を辞めちゃおうという議論がありまして昨年の秋頃経団連でシンポジウムがありまして、全部個人取得税でいいだろうというのが今の経済界の流れです。それもひとつの考えです。少なくても日本の個人取得税は先進国でも一番低いのです。 テレビの経済討論では本音が語られていないようです。そういう観点でみるとよくデフレ克服で「インフレターゲット論」というのが言われますね、インフレターゲットなぞできるはずはありません。まったくでないことはありませんが、めちゃくちゃなことをすればできる。 いろんなアイデアがあります。例えば自動車を毎月1万台づつ日銀が買う。買った車を東京湾に埋める。もちろん市場には出しません。つまり耐久消費財を一定量買ってそれを捨てる。それはインフレになるかもしれない。それを続けている間はですよ。ヘリコプターからお金をまくというのはともかくとして、株を買うというのは現実性がある。土地や株は重要な資産ですからそれを日銀が買って人為的に上げたとしてもやめたとたんに下がったら意味がない。当然投資家に大きな問題を投げかける。土地もそうですね。どこを買うか決めなくてはならない。東京の土地を買うのか北海道の土地を買うのか。 1992年の夏、バブルで土地の値段が下がったから公共事業の土地を各県に土地公社を作って買い上げましょうと。宮沢内閣のときです。今、どうでしょう?たいへんな含み損を抱えているのではないでしょうか。そうのようなバカな政策をやるからいけない。いかにも素人っぽい。株が下がったら国で買い上げる。土地もそうだ。今度は国はお金がないから日本銀行にやらせようとそれだけのことです。 インフレターゲット論を言う学者がいます。インフレターゲット論は確かに面白い。だから取り上げるのでしょう。万が一インフレになったら今度はインフレが止まらないのではないのでしょうか。今デフレといっても0.5%くらいです。2%も3%も高いわけじゃない。それでもこれだけの経済的なショックを与えている。せっかくのデフレ経済に自らの企業、個人の生活、あるいは国家財政というものをなんとかビルトインさせてデフレ経済と共生しようと考えているときにインフレにしたらいったいどういうふうな混乱をするかというのが目に見えています。 インフレは一度起こると止まりません。コントロールが利かなくなります。今年は少なくても大底を脱する精神状況になつている。相当頭の中を整理していわば新しい経済の体制、あるいは日本の経済そのものをグローバルスタンダードにもっていこうといろんな形で努力をする。その努力がそろそろ結び始めているだろうというのです。 30年周期にくる景気の転機 1981年くらいが景気の機転と考えると日本経済は今年から来年にかけて再生浮上という時点にぶつかるんです。約30年周期でしょうか。前後3年のくらいのズレを見ています。 アメリカは残念ながら来年ぐらいから沈滞していく流れに入っていくようです。今年の経済は別にイラクが戦品20兆円使って景気浮上するとは思えない。日本が上がりつつある、日米の経済は相互依存関係にある。アメリカが下がり日本が浮上するときぶつかり合いがここ何年かは続くでしょう。アメリカの経済が衰退していく時期は2010年頃と思います。2010年まではアメリカ経済が下がっていく、日本経済が下押し要因となっていく。そうすると日本は再生し浮上しても、その角度というのは残念ながらアメリカに頭を押さえられるのであまり極端に上がっていかないと思います。 しかしプラスの波動にあることは間違いない。前後3年、誤差があります。2010年が中心とすれば2007年?2013年、遅くとも2013年には日本はアメリカの下押しの圧力から脱して日本独自の形で、本来の日本の成長力、年3%あるいは2.5%という潜在成長力をキチっと発揮する日本経済が出来上がっていくと思います。 本日はご静聴ありがとうございました。 |